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狩人Tシャツ推奨委員会のスタッフルーム     ~そこに空いてる穴から覗いた風景~

狩人Tシャツ推奨委員会のスタッフルーム     ~そこに空いてる穴から覗いた風景~

しるし≪一幕≫

―しるし―


                                                AFRO IZM



:プロローグ:


先の世界のヒトビトは、自らの知恵に溺れ、生きる場所を失った。
残ったヒトビトは、あるいは元々いた大地にとどまり、あるいは海に逃げ、あるいは洞窟に逃げ、あるいは森に逃げた。
何もかも、全てが一からのやり直し。
あらゆる科学文明が世界から消え、そこには力のない者だけが堕ちていく時代になった。

すなわち、狩るか、狩られるか――――。

明日の糧を得るため、己の力量を試すため、またあるいは富と名声を手にするため、ヒトビトはこの地に集う。
彼らの一様に熱っぽい、そしていくばくかの希望を見据えた視線の先にあるのは、
決して手の届かぬ紺碧の空を自由に駆け巡る、力と生命の象徴―――飛竜(ワイバーン)
鋼鉄の剣の擦れる音、
大砲に篭められた火薬のにおいに包まれながら、
彼らはいつものように、命を賭した戦いの場へと赴く―――。

そんな彼らを、ヒトビトはモンスターハンターと呼ぶ・・・・・。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

:ナスティ州・火山:


「うおぉぉ、カイ!桜火!まだか!」
「もうちょっと!できれば完全に意識をそらしてほしい!」
「はいよ・・・、ったくしんどい注文だよまったく」

ここはミナガルデ地方から離れた活火山。
アルベニア地方を見下ろすような形でそびえたつ火山は、現在も活動をしており、日々灰を撒き散らしている。
火山活動の音が山中の洞窟内で響き、まるで鐘の音が鳴るように響く事から“ベルベニア活火山”と人々から呼ばれている。

そんな山中で、一匹の竜と四人の狩人が、狩る者と狩られる者がどちらになるか、死闘を繰り広げていた。

「よし、準備できたよ桜火」
「よーし、しっかり狙えよ」

―ブオォォン、ブオォォン―

低い重低音が、洞窟内に響く。
その音を合図に、リョーとシュウは左右に別れ、その竜を追い抜き、一気に距離を離す。
「目ぇつぶれ!」
そう桜火が叫んだ数瞬あとに、強烈な光が洞窟内を包む。
強烈な光が自身の後方から発せられたのがわかると、その竜は後ろを振り向く。

―グオォォォォ―

低い唸り声をあげた竜は、灰色の鎧と見まごうばかりのごつごつした甲殻に身を包み、口からは炎熱が漏れている。
大木と間違うほどの大きな尻尾は、岩のような・・・、いや、実際に岩と同じ硬さの甲殻に刺々しく覆われている。
冗談のように大きな体格のその竜は、誰が名付けたか、自然とついた二つ名、“鎧竜”の名を持つグラビモスだった。

 “鎧竜グラビモス”
頑丈な体は、主食としている熱石炭や鉱石が元となり、まさに岩のような強度を誇る。
幼体の頃からこれらの物質を摂取しているため、成体の強度はそれこそ岩の鎧のようだ。
弱点としては、その甲殻は肉に張り付くようについているため、外からの攻撃には強いが、内側には滅法弱い。
どこか隙間を見つけられれば、その鎧を引っぺがす荒業も可能ではある。
体の隙間からガスを噴出したり、口からはどういう原理かは未だ不明だが熱線を吐き出す。
それだけでも凶悪なのに、その硬い体は全てが武器になる。
実質上、全てのワイバーンの中で最強クラスに位置するモンスターである。

―コォォォォ―

息を深く吸い込む。
眼前の標的の数を確認する。
一匹、二匹、それと遠くに三匹。
・・・・・おかしい、もう一匹いたはずだ、さきほどは遠くにいることを確認したのだが。

―ダンッ―

突然、自分の胸あたりに小さな衝撃を感じた。
気になって自分の胸あたりを見てみる。
が、鎧のように体にまとわりつく甲殻が、自分の首をそこまで曲がらせてくれない。
・・・・・もう一匹はこんなところにいたのか、愚かな、そんな刃物では我の肉体に傷一つつけることなどできぬわ。
あの三匹を焼き殺してから、あとでお前を葬ってやろう。

と、鎧竜は深く吸い込んだ息を、勢いよく吐き出そうとした。
だが、次の瞬間。


―ボォォン―


少しこもったような音が鎧竜の体から発せられる。
それと同時に、鎧竜の熱線は衝撃で標準を無理矢理変えさせられ、洞窟の天井を焼く。

「そんな厚い鎧着てっと、反応が鈍くなっちまうぞ?」

と、桜火はわかりもしない人間語をグラビモスに向かって投げかける。
一方グラビモスは、後からきた激痛で、肩膝を地面につく。

「グオォォォ」

苦しみの声をあげ、体制を立て直し、意識を戻そうと首を振る。
その鎧のような甲殻に身を包んだグラビモスの肉体は、胸の部分だけ自慢の甲殻が剥がれ落ち、生身の肉体をあらわにしていた。

「おぉ、作戦成功だな!」
「ほんじゃ、反撃に出るよ~~」

そう言って走り出すのはリョーとシュウ。
カイは後ろで桜火に作戦大成功の合図をしている。

先程、リョー達四人が行なった作戦は、グラビモスの弱点と呼ばれている、胸の甲殻を破壊する事。
なるべく標的の注意を引き付けられるように、
ガンランスを持ったリョー、連続攻撃が可能な槍を持ったシュウが注意を引き付ける。
そしてカイは徹甲榴弾をグラビモスの胸部分に撃ち、さらに内部で爆発させれるように桜火が野太い太刀で弾丸を押し込む。
分厚く、硬い甲殻の中程まで押し込まれた徹甲榴弾は、爆発の威力を充分に発揮し、たったの一発で甲殻を吹き飛ばしたのだ。

「かなりのパワープレイだったけどな、本当に成功するとは・・・」
「まぁでも、確かに俺たちじゃないとできない作戦だったね」

グラビモスとの距離をぐんぐん短くする二人は、作戦の成功を短く祝う。
桜火はすでにグラビモスとの距離をとり、第二の太刀の準備を完了させていた。

―ブンッ―

「おわっ」
唐突に振り回されるグラビモスの尻尾は、桜火の頭上をかすめる。
その大木のような太さの尻尾は、ごつごつした甲殻で強度を増し、まるで神話の中に出てくる巨人が持つ棍棒さながらだった。

―バシィン―

「桜火!」
桜火の頭上をかすめた尻尾は、さらに勢いのついたまま再び桜火を狙う。
今度は当たったらしく、桜火は吹っ飛んでいた。

「あぁ~~くそ、防御したけど痛いってどうゆう事だよ・・・」

リョーの呼びかけに反応する桜火。
防御をしたものの、衝撃は刃を伝い、桜火の腕をしびれさせる。

―ズシュ、ズバッ―

シュウの先端が三つに分かれた刃がついた槍の先端が、グラビモスの生身の部分をえぐる。
初めて感じる痛みに、グラビモスは弱々しい雄たけびを上げ、後ずさりする。

―ガギンッ―

「くそ、桜火!もうちょっと下のほうだ!ここだと砲撃は届かねぇよ!」
「か~~、俺に言うな!カイに言ってくれぇ~~!」

まだしびれる腕で野太い太刀を握り、走り出す。

「悪い桜火、榴弾はもうないからあとはよろしく!」
そう言ってカイは先程からグラビモスの顔面に弾を撃ち込んでいる。
「はぁ~~、しんどい相手だぜまったく・・・」
そう言うと、桜火がグラビモスの腹下に潜り込む。
「ちょっと痛ぇぞ・・・?」

―ズシャッ、ザシュゥゥゥ―

「グォォォォォン!?」

グラビモスの胸は、大きく引き裂かれた。
桜火の野太い太刀は、鉤爪(カギヅメ)のような先端で生身の部分の肉に引っ掛け、それを力任せに降ろす。
そうする事でより内側からえぐれ、分厚い甲殻を無理矢理ひっぺがした。
グラビモスの胸から腹にかけては、もう重傷といってもおかしくない状態に陥っていた。

「グアァァァ・・・」
弱々しくなった声で鳴くグラビモス。
「やべ、カイーー!頼む!」

―シュゥゥゥゥ―

突如、グラビモスの全身から、白い煙が発生した。
「やべ・・・、リョー、任せたぁぁぁ」
「あぁ、もうダメ・・・」
シュウ、桜火の二人はその場で倒れこむ。

グラビモスが最後に放ったのは、即効性の睡眠ガス。
クロロホルムに非常によく似た成分で、それを嗅ぐ者はたちまちのうちに睡眠状態に陥ってしまう。
まさに、“イタチの最後っ屁”のようだった。

「グウゥゥ・・・」

低く唸った後、その場から逃げ出そうとするグラビモス。
手傷を負い、このままでは自分がやられてしまう危険もあったので、近くの三人をとりあえず眠らせておいた。

遠くから何かをぶつけてくる一匹の人間は、どうやら自分に致命傷を与える一撃は持っていないようだ。
ここは退散して、奴等が諦めるのを待つのみ・・・・・、何故だ、何故こいつは眠っていないんだ!?

―キュイィィィィン―

「悪いな、俺のほうが一枚上手だったようだ」
そこに立っていたのはリョー。
ガンランスの先端を、目の前まで甲殻が剥がれた肉体に向けて、構えている。

「グオォォォォ!!」
もはや仕留め切れなかった悔しさなのか、はたまた痛みを紛らわすためなのか、
洞窟が揺れるような怒りに満ちた咆哮をあげ、噛み砕こうと大きな口を開けるグラビモス。


―ドガァァァァァァン―


「俺は“諦めの悪い男”、リョー=スティンガーだ、向こうで会ったらよろしくな」
そう言ってリョーは、倒れるグラビモスから離れる。
グラビモスは腹部に大きな穴を開け、中から大量の血を流し、そして息絶えた。

「うぅ・・・、重ぇ・・・」

カイはシュウを救出したが、桜火までは間に合わなかったらしい。
桜火はグラビモスの尻尾に足を下敷きにされ、痛みで目を覚ましたみたいだ。

「わぁ、悪い桜火、間に合わなかった!」
カイは手を合わせ、“スマン!”と一言。
「どうやらグラビモスは狩り終わったみてぇだな・・・」
「あぁ、さ、剥ぎ取りしようぜ?」
そう言ってリョーは重い尻尾を持ち上げ、桜火を救出したのだった―――。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

:ミナガルデ・酒場:


「うお~~、や~~~~っと帰れたぜ~~~!!」
と、大きな声で帰還を知らせる桜火。
黒色の頭髪、前髪を右目のほうに垂らし、その垂らした髪の一部分が金色、襟足は左側だけ長め。
モミアゲからアゴまでヒゲを伸ばし、そのアゴにもヒゲを蓄えている。
身に着けているのは相変わらず特殊な盲目竜フルフルの素材で作った服、腕にはマカル、腰にはこの地方には無い珍しい腰巻。
ズボンは毒怪鳥ゲリョスの素材で作ったものだが、ブーツは桜色の“ハイメタ”と呼ばれる防具の≪Uモデル≫だ。
左右の腰には二本の刀を差しており、右側は“太刀”より少し短く太い“野太刀”と呼ばれる刀。
先端が鉤爪のようになっており〔白火虎徹(ビャッカコテツ)〕の冠名が刀身に刻まれている。
左側の腰には、鞘が火打石で拵えており、刃が鋸状に仕上げられ、刃こぼれを皆無にした〔陰炎(カゲロウ)〕と銘打たれた刀。
鍔は何故か、斜めに取り付けられている。
〔白火虎徹〕は重量は大剣より少し軽め、太刀より少し重め、と言ったところか。
刀身の背部には、爆弾にも耐えうるほどの耐火性に優れた白い獣人族の毛を装飾してある。
火竜の骨髄を使った爆炎で相手を焼く、と同時に油を染み込ませた獣人族の毛で常時炎を纏う、まさに炎の太刀である。
弱点としては、あまり長時間は炎が纏えない事と、油を染み込ませたり、色々手間がかかることだろうか。
この武器の特徴としては、大剣に近い威力の攻撃を、太刀の速さで繰り出せる事だろう。
もちろん連続では打てないぶん、太刀より手数は劣るが。

「これで俺達も最上級ハンターの仲間入りだな」
そう言ってクエスト完了の印が押された紙を受付に渡すのはリョー。
茶色の頭髪、オールバックで、襟足は一本に結んであり、右耳に羽の付いたピアスをつけている。
上半身は“一角竜”の二つ名を持ち、モノブロスと呼ばれるモンスターの真紅の鎧を身に付けている。
腕には雌火竜リオレイアの鱗をベースに鉱石で補強してある腕当てを付け、両方を≪Sモデル≫にモデルチェンジしている。
赤い布地で、ハンターズギルドの問題解決人、ギルドナイトが見に付けていると噂されるギルドナイトスカートの形の腰巻。
イーオスと呼ばれる鳥竜種の赤い鱗や皮で作られたズボンに、灰色の鉱石を使ったブーツ。
腰には先が尖った〔ホウテン―紫閃光―〕と銘打たれたランスが差してあり左腕には大きな紫色の盾を装備していた。
このランス、“ガンタイプ”で、先端から弾丸を発射できる代物。
さらにクエスト中に数えられる程度にしか使えないが、“竜撃砲”という、とても強力な攻撃ができるのも特徴だ。
ただし、タイミングはシビアで、よっぽど相手に隙がないと撃てないのが欠点みたいだ。

「おぉ!ジン!こんなところで待ってたのか?いや~、新しい槍はかなりよかったよ!」
アイルーに話しかけているのは、槍使いのシュウ。
黒色の頭髪、短髪で、モヒカン気味に立ててある。ミナガルデで流行の「ベッカムヘヤァ~」だ。
“デスギア”と呼ばれる、死神をモチーフにしたローブを身に付けている。
ただのローブとあなどるなかれ、その布地は火には弱いものの、裏地には重くならいよう、薄く加工した鉱石が使用されている。
狩りの時のみフードを被るが、その目は死神と呼ぶには相応しくない、綺麗な目をしていた。
基本的に全身には機動力に長けた市販のハンターシリーズを〔Uモデル〕にモデルチェンジして装備している。
その上から、死神のローブを纏う感じが、最近の彼のスタイルみたいだ。
背負っているのは、先端が三叉に分かれている槍、〔青龍槍―雷斬(ライキリ)―〕で、一般の武器とは違い異色の武器だ。
三つに分かれた刃のうち真ん中が一番長く、左右の刃は斜めに向かって湾曲している。
さらに、柄側にも同じように湾曲した刃がついており、さしずめ刃の手足、といったところか。
攻撃には充分な威力を誇るこの槍だが、防御の面は手で握れるくらいの細い棒なので、満足にできないのが欠点だ。

「“四神シリーズ”ねぇ、名前は凄いけど、扱うのが俺らじゃ有名にゃならなそうだな~」
そう言って桜火とシュウの武器をまじまじと見るのはカイ。
茶色の頭髪、長髪で、見事にストレートな髪質、前髪は六対四で分けてあり、視界に支障がないようにしている。
雄火竜リオレウスの赤黒い部分の鱗や甲殻のみを使った防具でまとめており、頭の防具はつけていない。
狩りの最中は右眼に眼帯をしており、本人が言うには“集中力が増すから”らしい。
肩には〔火竜弩〕と呼ばれる、弓状のライトボウガン。
“へビィ型”より軽い“ライト型”は、機動力と共に装填速度も速いモノが多く、
後方支援に優れ、なおかつ連射速度も速い事から、銃弾の雨を降らすこともできるのが“ライト型”の特徴だ。
火竜弩は、雄火竜リオレウスの耐火性に優れた甲殻を使い、ハンマーを弓状にする事で威力を底上げした代物。
さらに、弾詰まりで動けなくなった時用に、後ろの腰には片手剣を装備してある。
最近開発された新しい片手剣〔ライトバング〕は、
曲剣型にした事により切れ味が長持ちする、砥石を持たないガンナーにはうってつけの近接武器だった。

「いいんだニャ!それは僕にとって特別な人達への贈り物ニャ。でも初めての自分の作品だから、心配になったニャ!」
「で、ここで待ってたと・・・、安心しな、この“虎徹”ってやつぁ、かなりいい武器だぜ」
「本当かニャ!ど、ど、どんな風に狩ったんだニャ!?」
「あぁ、この鉤爪部分で・・・と、話はあとだ、とりあえず席をとってからな」

そう言って桜火は席を探し始める。
リョー達が帰ってきたのはちょうど夕飯時。
この時間は他のハンターの帰還時刻とも重なり、基本的に席は空いていないのが普通だ。
どうしても酒が飲みたい場合は、席が空くのを待つか、知り合いのハンターと相席させてもらうかしかない。
四人はリョーのクエスト終了報告が済むと、酒場の真ん中ほどまで来て回りを見渡す。

「あ~~みんな!こっちこっち!」
と、酒場の騒音の中から自分らを呼んでいるであろう、聞き覚えのある声が聞こえる。
「お、エリー!クロ!あとリンちゃんにカイさんも・・・、みんなも無事だったか~!!」
リョー達は“ナイスだ!”と、四人の席に向かう。

「みんな、大きな怪我はないみたいで、よかった~~」
と手を振っているのはリン。
銀色の頭髪で短髪、瞳の色は珍しい緑色で、色白だ。
頭には市販の“バトルシリーズ”のハット型の帽子を、自分色に装飾品をつけて被っている。
もっとも、今は狩りの最中ではないので、外して机に置いているが。
雪獅子ドドブランゴの防具を胴当てと腕に。
雌火竜リオレイアの亜種で、“リオハート”と呼ばれる桜色の体色をしたリオレイアの防具を下半身に。
机に立て掛けられたボウガンは、〔ラピッドキャスト〕と呼ばれるへビィ型のボウガン。
このボウガン、基本的な素材は楽に手に入るものの、一部に入手困難な“ねじれた角”と一般的に呼ばれる物が必要なボウガン。
その角は兄である戒(カイ)が提供したものの、すでにリオレイアの亜種の狩猟を認められるほどに、リンは強くなっていた。

「あぁ、なんとかな、今回もトドメはエリーにもってかれちゃったよ」
と、笑っているのはリンの兄である戒。
リンと同じく銀色の頭髪で、ロングの髪型。
スティールメイルをつけてはいるが、≪Uモデル≫にしてあり、黒っぽい色をした胴当て。
腕と脚の具足は、雪山に生息する、ギアノスと呼ばれるモンスターの素材で作られた黒い防具。
鳥竜種のランポスの素材を使った灰色の腰巻をつけ、さらにその防具の上から黒いロングコートを着ていた。
そのロングコートの裏地にはマカライト鉱石が薄く使用されており、軽めながらも硬い防御力をもっている。
背中には〔―天下無双刀―〕と銘打たれた太刀を背負っており、その実力を静かに、しかしながらはっりと証明している。
それもそのはず、戒のもつ天下無双刀は、公式武具カタログに載ってはいるが、
こしらえる事ができるのは数少ない名工のみで、しかもその名工は自分が認めたものにしか武器を作らないという。
つまり戒は、武器の扱い、狩りの腕前と共にどこかの名工に見い出され、この武器を作ってもらったという事になる。
さらにこのたぐいの武具は資金も莫大な金額がかかり、同時に収入も他のハンターより上ということの証明にもなるのだ。

「いやぁ、そんな・・・、でもまぁ、今回は捻挫はしませんでした!」
そう言って胸を張っているのはエリー。
黒色の頭髪を腰まで伸ばし、頭の中間から二十本ほどに編み込み、肩口からそれらを一つに結わえている。
“クロオビ”と呼ばれるハンター養成学校卒業の証にもらえる防具を、
胸と腕に身に付けており、腰にはリンと同じく、リオレイアの亜種の腰当て。
だが、何故か“ガンナー用”の腰当てをしており、本人いわく、動きやすいとの事。
足には鳥竜種ランポスの亜種で、雪山に生息する“ギアノス”の具足。
机に立て掛けてあるのは、エリーが扱う特殊な武器で、名を〔蒼蓮華(ソウレンカ)〕という。
形状的にはシュウの槍と同じだが、槍とは違い、先端には片刃の刃がついてある。
“薙刀”と呼ばれる武器で、女性が扱うのに適した、言わば女性専用の武器だ。
先端の刃は、先のほうで二つに分かれており、より突き刺しやすいようになっている。

「いや~、ぜひ僕にも“四神シリーズ”のどれかを作ってほしいよ、ジン」
そう言いながら、二人前はあるであろう大きなステーキを食べながら話すのは、クロウ。
黒い肌に、銀色の髪の毛をモヒカン気味に切りそろえ、真ん中で編みこみをしている。
毒怪鳥ゲリョスのゴム質の素材で作られた防具を全身に身に纏い、兜だけは腰にくくり付けている。
その容姿は、一言で言えば肥満・・・だが、それはこの防具の特徴である。
分厚く柔らかい防具で攻撃を吸収し、反撃の時間を短くする、歩く要塞といったようなイメージだ。
いつの間にか、亜種である紫色のゲリョスの防具になっている。
その男の背中には、重そうなハンマーがくくり付けられていた。
ハンター養成学校卒業の証で〔クロオビハンマー〕と呼ばれる大きな鉄槌は、
モンスターの頭部を叩けば一瞬で気絶させ、胴を叩けば骨を折る、そんな印象の武器だ。
そのハンマーの柄部分には、“クロウ=ティンバー”と赤く、目立つ表記で名前が書かれている。

「かまわないニャ、クロも僕に初めてのゲリョスシリーズの製作を任せてくれたニャ、記念の人なのニャ~」
そう言ってジンは机の上によじ登る。
ジンは工房で働く獣人族のアイルーだ。
ひょんな事から工房の親方に直接指導を受けながら、武器や防具を日々製作している。
この桜火とシュウが持っている“四神シリーズ”は、この獣人族のジンが製作したものだ。

名工と呼ばれる鍛冶屋は、新しい武具や、特殊な武具を製作する図面を作るのに長けていると聞く。
ジンは日々の長い労働の後、さらに徹夜して武具の図面を書いたそうな。
そして完成した図面を親方に頼んで、力仕事が必要な場所は手伝ってもらい完成したのが、この“四神シリーズ”なのだ。
ジンももしかしたら、戒の太刀を作った名工の仲間入りをするのかもしれない・・・。

ジンは“名前が肝心ニャ!”と言ってたいそうな名前をつけたが、本人達はちょっと恐縮らしい。

「これで四人とも、最上級ハンターだな」
そう言って酒の入ったグラスを“乾杯”と四人に向けた戒。

大型モンスターには、それぞれ階級がある。
ドスファンゴ、ドスランポス、ドスゲネボス、ドスイーオスの四体は、入門級。
この四体は二つ名がついていないところ、行動パターンが同じで知恵も少ないところなどが特徴だ。
怪鳥イャンクック、毒怪鳥ゲリョス、砂竜ドスガレオスの三体は初級。
ここからは二つ名がついたモンスターが出現し、同時に強さや賢さも、入門級とは格段に上がる。
桃牙獣ババコンガ、盾蟹ダイミョウサザミ、岩竜バサルモス、白竜フルフル。
この四体は中級モンスターに指定され、攻撃力や耐久力が並外れたものが多くなってくる。
雪獅子ドドブランゴ、雌火竜リオレイア、鎌蟹ショウグンギザミ、黒狼鳥イャンガルルガ、水竜ガノトトス。
この五体は上級モンスターで、このクラスになると狩りをするのに入念な準備や、経験などが必要になってくる。
最後に、鎧竜グラビモス、雄火竜リオレウス、砂竜ディアブロス、轟竜ティガレックス。
この五体は最上級に位置するモンスターで、ケタ外れの攻撃本能に、並みの力では傷一つ付かない耐久力を持っている。

この他にも、伝説とも噂されるモンスターが二体、古龍種と区分されるのが四体、現在では確認されている。
いずれも個体数が圧倒的に少ないのと、個体それぞれが非常に強いため、階級をつけるのは困難な情況なのだ。

この他にも巨大種というのも三体いると噂されているが、いずれも討伐の記録がないために、情報量が極めて少ない。
やれ大きな竜だったの、大きな蟹だったの、大きな蛸だったのと、確証のない証拠があるため、情報も混雑している様子だ。

「ん~、とりあえずギリギリだったけど、まぁやれない事もなさそうだったよね」
そう言って運ばれてきた酒に手を出すのはカイ。
「なるべくなら相手にしたくない相手だよな~、やっぱ最上級のやつらを簡単に仕留めるのはまだまだ経験が・・・」
シュウはクロウの肉をさりげなく奪い、一気に口の中へ放り込む。
「ま、これからだろ!これから強くなればいいこった!」
そう言って桜火は酒ではなく、野菜を搾った飲み物を飲んでいる。
「あれ?珍しいな、酒飲まないなんて、このあとなんかあんのか?」
リョーが魚の刺身をおつまみに、すでに二本目のビールに突入していた。
一本目は一気に飲み干したらしい。
「あぁ、明日からまた休暇だろ?ちょっと買いモンもあるし、酔い潰れて寝ないように、な・・・」
「ニャー!!そんな事はどうでもいいニャ!新しい武器はどうだったのかニャー!!」
「おお、悪い悪いそんでな、この青龍槍だけども・・・」
と、酒を飲み、机の上で暴れだすジンに、シュウは新しい槍の性能を、こと細かに説明していた―――。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

:ミナガルデ・朝の商業区:


「さぁ~~安いよ安いよ!この太陽ミカン!たったの4zだ!どう?買わないかい?」
「月間・狩りに生きる、本日が発売日だ!早く買わないと売り切れちゃうよ~、さ、買った買った!」

様々な物売りの声で賑わう、朝の商業区。
昼食、夕食、次の日の朝食をまとめて買う人が多く、朝の時間が一番忙しい時間帯だ。
さらに、衣服や色々な生活雑貨を求めてくる人も混ざり、朝の商業区は人でごった返している。

「ん~~いいねぇ、この活気、やっぱり買い物は朝じゃねぇとな!」
と、この人だかりの中で一際目立っているのは桜火。
それもそのはず、買い物客はほとんどが一般市民で、昼に活動を始めるハンターがこの時間に、この場所にいることが珍しい。
「油だよ~~!朝一番で採取したガマの油だよ~!」
「お~オッサン!それそれ!それをこの瓶いっぱいに売ってくれ!」
と、桜火は腰から下げる、携帯用の酒瓶を取り出した。
「オッサンとは失礼な、それよりなんだい、アンタは油でも飲むってのかい?」
油売りの男は、酒瓶にガマの油を注ぎだした。
「いやいや、まさか。こいつに使うんだよ、こいつに」
と、桜火は右の腰に差してある“白火虎徹”を手でポンポンと叩いた。
「あぁ、あんたハンターさんか・・・、その武器に使う?」
油を注ぎ終わった酒瓶を桜火に返しながら用途を聞き出す。
「このフサフサした毛の部分に油を染み込ませて、火ぃつけちゃうの(はぁと」
と、桜火は悪そうな笑みを浮かべる。
「な~るほど、頼もしいハンターさんだ!はっはっは、常連になるなら二割引にしちゃうよ!」
そう言ってお金を受け取る。
「おぉ、助かるぜ!じゃ、次から頼むよ!」
桜火は軽く片手で手で挨拶を済ませ、酒場に向かって行った。


桜火が立ち去ってから、半刻ほどだろうか。
一人の女性が、この油屋に立ち寄った。

「あの~、ここに桜火って名前のハンターが立ち寄りませんでした?」
「ん?ハンターなら今日は一人しか来てないから覚えてるが、なるほど、アイツ桜火って名前だったのか・・・」
「あっ、そのオリーブオイル下さい」
「ん、はいよ、Sサイズでいいかい?」
「えぇ、それで、そのハンターがどこに行ったか知りませんか・・・?」
と、その女性はオリーブの油を入れてもらった瓶を受け取り、お金を渡す。
髪の色は桜火と同じ黒色で、さらに桜火と同じ部分が金色。
はっきりとした顔立ちで、大きな目が特徴的だ。
ショートヘアーで、スタイルは抜群。
衣服はこの街ではあまり見かけない茶色いワンピースを着ていた。
「多分、ハンターなら酒場に行けば何かわかるんじゃないかな?」
「酒場?そこはどこにあるんですか?」
「ほら、そこの突き当りを右に行けば、でっかい建物が見えてくるよ」
「ありがとうございます」
「アイツ、相当買いこんでたから、今頃は酒場で昼食とってるかもな!」
と、そう言って油屋と、その珍しい服を着た女性は別れた。

『やっと、やっと見つけたわよ・・・』
酒場と思われる大きな建物を見つけると、その大きな瞳をさらに大きく開け、酒場の門をくぐった―――。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

:ミナガルデ・正午の酒場:


「へぇ~、たしかにそいつを持ってれば油の補給ができるな」
「まぁ、ちょっと重いから機動力が心配だけどな、とりあえずは楽なクエストで試してみんよ」
と、リョーと話しながら食事をしているのはもちろん桜火。
リョーは基本的に昼間には酒場にいるらしく、だいたい一番乗りだ。
もちろん昼間から飲んだくれているわけではなく、依頼書を細かくチェックして、今後の予定を計画するためである。
「お、来たな・・・」
と、酒場に入ってきたのはカイ、シュウ、エリー、リンの四人。
「クロと戒君は?」
「あぁ、どうせ寝坊だろ・・・、戒君は朝一で狩りに出かけたよ」
リョーの問いに、カイが答える。
「ぶほっ!昨日帰ってきたのにもう行くのかよ!?」
桜火は驚き、夏野菜のパスタを吹き出す。


「あ~ぁ~、汚いわね~・・・」
「あぁ、すまね・・・ブフ~~~!?」
桜火はまたも驚き、口に含んだ水を吐き出す。
「・・・・・誰?」
と、シュウがリョーに聞く。
「さぁ、わからん、どうもあの様子じゃ、桜火の知り合いみたいだな・・・」
リョーの視線の先には、桜火が吹き出したパスタと水を、そばにあった布で拭いている女性。
その横で桜火は、頬杖をつき、そっぽを向いている。
「あの~、桜火さんの・・・知り合いの方ですか?」
と、リンがその女性に話す。
「ん~、まぁ知り合いっていうか・・・、ほら、話してあげなさいよっ」
と、相変わらず頬杖をつきそっぽを向いている桜火の肩を揺らす。
「・・・で、誰だそのレディは?」
「う~ん、ハンターには見えないし、桜火には兄弟はいないし・・・」
「どっかで見たことあんだよな~、あの感じ・・・」
と、口々に女性の正体を暴こうとする三人。




「昔の・・・・・女だよ」
ぶすっとした表情で桜火が呟いた。




「「「えぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」




驚き、あわてる一同。
リョーにいたっては、桜火が飲んでいた水を飲み、また吹き出す始末。

「むむむ、昔の女ぁぁぁぁ!?」

リョーは大きな声で叫ぶ。
“昔の女”と言われた女性は、桜火の肩に手を置きながら、ニコニコしている。


「・・・・・なんで来たんだよ?」
相変わらずぶすっとした表情で、頬杖はついたまま女性に話しかける桜火。
「あら、仕事よ、し・ご・と、今度ここで公演するの、よかったら見に来てねっ」
と、ニコニコしながら返事をする。
「・・・・・、いったん帰るわ、今後のミーティングはまた後でな」

桜火はそれだけ言い残すと、酒場を出て行った。
「あら、つれないわね~~、ちょっと、アンタの部屋にでも案内しなさいよっ!」
と、その女性も桜火のあとを追って、酒場を出て行った。




「・・・・・オホン」
リョーが咳払いで、とりあえずその場をまとめる。
「状況を整理しよう」
と、リョーが椅子に座る。

「お、思い出した!!」
と、ふいにカイが叫ぶ。
「あの女、演劇団“蜜に群がる蝶”の人気女優、杏(アンズ)だ!」
「あ~、あのドンドルマの有名演劇団か!でもなんでここに?」
リョーがカイにさらに問い詰める。
「たぶん、遠征公演だろ、仕事って言ってたし」
「なるほどな~、それで桜火のところにね・・・」


「おっくれました~~~!!」
と、ここでクロウがやっと酒場に到着した。
「・・・・・あれ、なんかおもしろい事でもありました?」
カイがクロウの肩をぽんと叩いて、首を左右に振った―――。


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≪二幕≫へ続く




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